Blog:医療人文学/ ONHP 報告 #026 (240606)

5月31日(金)〜6月2日(日)に立正佼成会の一行に英国から加えてもらい、ローマ郊外 Castel Gandolfo で開催された、カトリック教会内の諸宗教対話のためのフォコラーレ運動 Focolare Movementが主催する国際会議に参加した。佼成会の活動の一つの柱である宗教間対話の活動を体験させてもらった。立正佼成会の初代会長庭野日敬(「開祖」)は、ローマ・カトリック教会、またカトリック教会内の諸宗教対話の諸団体との関係を築いてきた。現在の「次代会長」の職にある庭野光祥師は、上智大学大学院実践宗教学研究科の修了生。さまざまな宗教間対話国際会議の共同議長等を務め、開祖の想いを継承している。開祖は、非キリスト教宗教者として初めて1965年の第2バチカン公会議に招聘され、1979年にはテンプルトン賞(https://www.templetonprize.org/laureate/nikkyo-niwano/)、ローマ教皇庁聖グレゴリー勲章などを受賞した。佼成会の活動は、日本国内よりも国際的な舞台でよく知られている。今回の滞在中、私たちも、ローマ教皇フランチェスコ師への謁見や在バチカン日本国大使千葉 明 氏からの夕食ご招待などの機会が与えられ、佼成会の活動が広く認知されていることを体感することができた。

会議は、宗教間対話「について」議論するのではなく、さまざまなテーマをめぐって宗教間「で」対話する機会だった。1)人間関係や国際関係における平和のための宗教の役割、2)AIが対人関係や宗教間関係に与える影響、3)平和のための経済、4)平和と自然(被造物)、5)信仰と価値と投資、などが今回のテーマ。その合間に、世界各国・諸宗教の人たちの宗教間対話の経験についての体験の共有がなされた。ローマ教皇庁のさまざまな役職の方々、世界のフォコラーレ運動に関わる方々、ムスリム、ユダヤ教徒、アジア各地の仏教徒、アフリカの諸宗教の方々など。リーダーたちが200名ほど、それに各国からの青年たちが200名ほど。フォコラーレの施設第会議室が半分に仕切られ、そこがほぼ満席に。

いくつか関心のあるテーマを紹介したい。

会議のさまざまな機会に、現在世界各地に起こっている争いの犠牲者への祈りと、紛争の終結に向けての努力の必要を訴える発言が行われた。

1)のセッションで印象に残っているのが、イタリア外務国際協力省Ferrara大使の講演の中で語られた「Think Globally, Act Locally」という発想から「Think Locally, Act Globally」への転換。平和の問題を考える時に大切なのは、国家間の平和構築から発想するだけではなく、一人一人の日常生活における平和・安寧にしっかり目を注ぐこと、という。現代の紛争において一番被害を被るのが女性であり子供であることを考えると、宗教者はしっかりとミクロなレベルに目を注ぎ、そこから発想することが大切だと論じられた。これはケアについても言える。advocacyという言葉で表現することもできるが、マクロな領域にインパクトを与える概念としては弱い、それに対して「Think Locally, Act Globally」はより広がりのある概念に思える。同時に、ケアとは重荷を負った特定の個との関係にとどまらず、社会の変革を求める営みであることを思い起こさせてくれる。今後の活動の指針としたい。

2)でのAIに関するセッションは、大きなものだった。教皇フランシコは今年の1月、「人工知能と平和」についてメッセージを発信し、AIをはじめとする技術開発の倫理的課題に取り組み必要を強調した。2020年2月には教皇庁生命アカデミーと技術・産業界関係者によって作成された「Rome Call for AI Ethics」が発表され(https://www.romecall.org/the-call/)、2023年にはイスラム教・ユダヤ教の代表者が署名した。今年7月には、ヒンズー教、儒教、道教、仏教、神道等のアジア諸宗教関係者による署名が、広島において実施される予定。人類いとって、技術の非倫理的な利用のシンボルである地を選び、その重大性を訴える。この実現には、バチカンにおられる千葉大使の尽力が大きかったと伺った。会議では、医師の倫理の土台をなしている「ヒポクラテスの誓い」に並ぶAIエンジニアの「誓い」を確立する必要が述べられた。インターネットで検索すると “I hereby pledge that to the best of my knowldege and to the best of my ability, I will think about the larger consequences and use AI only for good” (https://theoath.ai/ )を見ることができる。具体的には、フェイクニュースの拡散、AI利用に関わる格差の拡大、監視システムの悪用、雇用上の影響、自立型兵器をはじめとする軍事利用への懸念が論じられた。印象的だったのが、AIを用いたニュースの捏造拡散や画像の生成加工を人間が見分けることは不可能だということ。それらを見分けるためには、AI自体による監視システムが必要だ、という点。

4)の被造物との平和、いわゆる環境問題については、2015年に公布された回勅『ラウダート・シ』、並びにそれを補足する2023年の使徒的勧告『ラウダーテ・デウム:気候危機について』を土台に、「新しい生き方を考える」のではなく「新しい考え方を生きる」必要が語られた。庭野光祥師は、宗教者として、「足るを知る」という世界との関わり方の重要性を語ると同時に、不完全な私たちの営みを悔い哀しみつつ生きることのリアリティを語られた。

3)や5)について、信仰を持つ経済・経営の専門家たちの話も興味深かった。特に、統計的に見て世界の人口の85%が神仏そして超越的な力の存在を信じている世界で、宗教者が真剣に政策や社会正義の問題に取り組む必要が訴えられた。

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以下、毎回のお願い:バックグラウンド・リサーチが不十分なものも掲載します。限られた体験に基づく主観的な記述が中心となります。引用等はお控えください。また、このブログ記事は、学びの途上の記録であり、それぞれのテーマについて伊藤の最終的な見解でないこともご理解ください。Blogの中では個人名は、原則 First Name で記すことにしました。あくまでも伊藤の経験の呟きであり、相手について記述する意図はありません。

伊藤高章 t.d.ito@sacra.or.jp

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