Blog:医療人文学/Oxford 報告 #001 (231229)

医療人文学のチュートリアルセッション各論第1回は、Alberto による医療哲学・医療倫理。日程とトピックの調整のため、メールが来た。Albertoはオックスフォード大学の Oxford Uehiro Centre for Practical Ethics の Senior Research Fellow。彼の研究のリストを見ると、Vaccination(特にコロナ禍における) や Conscientious Objection in Healthcareなどがある。

ミラノ大学出身で、おそらくイタリア人。そして彼の研究関心を見た時に、Roberto Esposito の communitas vs. immunitias の議論が頭に浮かんだ。Espositoにとって、immunitas は「免疫」という医学用語であるより先に、社会哲学の概念である。それは、内部機能の安定化のために外部からの影響を排除するシステム。munus という組織外部の(それなりに意味のある)要素を排除するim-munitasとそれらの要素を取り入れるcom-munitasとが対比される。社会の免疫機能は、何らかの意味で設定された組織の安定性のために、ある他者を排除するシステムを意味する。現代の人類社会は、コロナ禍を通して、社会を守るために罹患者を隔離し排除する経験をした。医療倫理のさまざまな問題が、この概念を通して明らかになる。公共の福祉とは何か、munusとは何か、決定プロセスはいかにあるべきか、自己の健康に関する個人の決定権は制限しうるのか、などの医療人文学の中心テーマがここに関わってくる。「裁かない、排除しない、互いに自分らしく居る」という、我々が大切にするケアの倫理も、この議論に無関心ではいられない。Albertoもまさにこの問題に取り組もうとしていたとのことで、チュートリアルのテーマはすぐに合意することができた。2月5日の夕方に上廣センターで。

我々がコミュニティと呼ぶものが、実は排他性によって成立しているimmunitas であることがいかに多いことか。「他者のために、他者とともに」という理念を掲げるとき、仲間内の話でなく、本当に「他者性」を受けとめられるのか、が問われる。

3日後の出発に向けて、慌ただしく準備をしている。日本でやり終えてから出発したい仕事もある。そのようなことにお構いなく、オックスフォードでのプログラムに関わるメールがどんどん入ってくる。否が応でも、心がそちらに向けられる。

以下、毎回のお願い:バックグラウンド・リサーチが不十分なものも掲載します。限られた体験に基づく主観的な記述が中心となります。引用等はお控えください。また、このブログ記事は、学びの途上の記録であり、それぞれのテーマについて伊藤の最終的な見解でないこともご理解ください。

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